インストーカー

恋愛小説を毎週水曜日に連載していきます。

第二部インストーカー7

あらすじ
  シズカと交流することに何とか成功した星彦は、直に話すことができないため、SNSで交際しようと目論む。だが道のりは程遠く、一進一退を繰り返す日々だ。そのうちシズカの様子がおかしいことに気づいた星彦は、ツイッターを使って問い詰める。するとシズカは徐々に理由を話し始めた。

 

登場人物

結城星彦…片思いに悩む、関東の地方都市出身の大学生。印象が薄く、好きな女性に存在を知られていなかったことに大きなショックを受けている。

シズカ…星彦が片思いをしている女性。穏やかだが感情がわかりにくく、付き合いにくい。

理人…星彦の親友。六本木で生まれ育ったおしゃれ男子。

愛梨…理人の彼女。ぽっちゃり体型が悩みで、食べることが大好きなのに我慢の日々である。

巧…教職の授業で同じグループになった、熱血教師を目指す一途な野球青年。

田島…岩手出身の純朴で心優しい詩をこよなく愛する男。シズカが想いを寄せている疑惑がある。

 

その7

   今週から今期の授業が本格的に始まった。セメスタ制でなきゃ二回分の授業は無駄にならないのに、大学もまた何でこんな制度を採用したのか。しかも二学年下から、全ての学部が学期制になったというから、腹が立つやら呆れるやら。必要のない制度ばかりとっかえひっかえ押し付けてきて、苦労するのは児童・生徒や学生ばかり。文科省始め教育関係の大人たちは揃いも揃って馬鹿しかいない。
 これからの人生が思いやられるが、俺にとってセメスタ制は悪いことばかりではなかった。仲間たちの情報を駆使して、シズカと同じ授業で自分の都合と合うものを三つ探し出すことができたのだ。それと教職で必須のものが二つ。去年は語学とゼミが同じだった上に、選択授業も驚くほど被っていた。それに比べると今期はかなり少なくなってしまった。
 外国語はお互い得意な英語と中国語に分かれた。まぁ、内気なシズカに中国語は無理だろう。試験ではとにかく思い切り良く、大きな声を出さないと単位はもらえない。
  ゼミでシズカが希望していた平安文学をわざと外したのは、このゼミは希望者が多くて俺は外されるだろうと予想したからだ。ミポリンに敵視されているんだから、仕方ない。妄想おばさんは、俺のことをシズカの勉強の邪魔をする毒男だと思っているらしい。笑える。
 去年の登録の時期に、シズカからメールでゼミは決まったのかと聞かれた。そのメールに俺は堂々とこう返信したものだ。
  「まだ決定してないけど、山路ゼミは怠け者気質の知り合いたちが、楽目当てでなだれ込んだから、倦厭してるんだよね」
  せっかく平安文学ゼミの面子の悪さを教えてあげたのに、シズカは迷うことなくそのゼミに収まった。

  「日本の美術」は予習もいらないし、課題もない。その上先生は美人でやさしい。俺は先週と同じ席で、少し遅れると連絡してきた理人をのんびりとした気持ちで待っていた。  シズカは一人なら嫌がらせのように席を変えるかもしれないが、友達が席取り係をしているようなので、勝手はできないはずだ。しばらくすると、シズカの友だちが来て、先週と同じく俺の前の前の席に座った。よっしゃ。これで席は決定した。安堵すると鼻歌を歌う気分でシズカを待った。しかし、待てど暮らせどシズカは来ない。そのうちに「あれぇ、この授業取ってたんだ。隣いいかな」と言ってシズカの友だちに近寄ってくる女子が現れた。
 「そこはシズカの席だからダメ」
  危うく飛び出しそうになった言葉を理性で飲み込んだ時、俺は奇妙な言葉を聞いた。
    「いいよ。私一人だから。良かった、仲間がいて」
  ぼんやりと考えた。この子、先週のシズカの友だちと違う子だったんだな。髪型とか雰囲気が似てて間違えたんだな。あの子どこに座ってるのかな。俺は辺りを見回したが、よく知らない子だから探しようもない。間もなく先生が現れたが、シズカを確認することができなかった。
 十分ほど遅刻で理人がやって来たが、「すまん、電車…」と言いかけて止めてしまった。シズカが前の前の席にいなくて、俺の顔がこわばっていたので、一瞬で状況を理解したようだ。ただ理人と俺は状況把握が少し違っていたようだ。

    決定打は授業が終わってすぐにやってきた。
  「ほんと良かった。先週まで一緒にいた子、急にキャンセルしちゃってさぁ」
  「まじ?教室広いから偶然出会えてラッキーだったよ」
  「うん。先生優しいけど、テストはぼっちだと心細いしね」
  「そうそう」
    シズカの友だちとその連れの二人は、手をつないでスキップする小学生のように、軽やかな足取りで笑い合って去って行った。
  シズカは「日本の美術」をキャンセルした。セメスタ制だからキャンセルは当然ある。皆、より良い授業にありつくために必死だからな。たくさん申し込んで次々キャンセルするのが、スムーズな卒業への第一歩…。違うだろ! この授業をキャンセルするアホがどこにいるんというのだ。前回と同じどころかかなり学生は増えていた。当たり前だ。どんな授業よりも優先されるべきと断言できるほど、俺たち学生にとって都合が良かった。
 まず、出席は山路先生と同じように番号を一日中解放、即ちその日中に先生に番号を送ればいい。水野さんのように一度も出席しなくても、番号を教えてくれる協力者さえいれば、出席はクリアできる。テストはもう決まっていて、絵巻物の歴史についてレポートを千字以上。最悪ウィキペディアを丸写しすればいいのだから、来年からは希望者が殺到すること間違いなしだ。
 それにも増して、シズカの最も得意分野であり、レポートはものの三分で出来上がるだろう。質のいい資料のありかなど、お見通しだからな。成績は確実にSをゲットできる。
  喉から手がでるほど欲しいスーパー楽単を、シズカはボロ布のように捨てた。理由はただ一つ。俺がいるからだ。他に理由は何一つ見つからなかった。どんな有能な弁護士でも、この理由以上に説得力があるものを見つけ出すのは不可能だろう。
    理人は何もなかったかのように無言で、俺の隣を歩いていた。本当に何もないのだと決めているように、理人の美しい横顔には動きがなかった。俺のために怒ってくれているのだなと思った。次の授業の教室で、愛梨は千夏たちと話していたが、俺らを見つけて無邪気な笑顔を見せた。愛梨の笑顔が涙でぼやけた。